半健康というものの
 奥にある慢性覚醒不全
 
 三木氏によれば「慢性覚醒不全」とは目だけが覚めて,体は半分眠っている,そんな状態を指すものだという。これが現代人にはかなり多く潜み,様々な不調を訴える原因になっているのではないかという。

 これは我々の中に,二個の体内時計,すなわち太陽との関係から生まれた活動と休息のリズム,月との関係から生まれたリズムとがあるからではないかというのが三木氏の推論である。太陽と関わる昼夜リズムは24時間周期で,月と関わる潮汐リズムは25時間周期と考えられている。光の明暗,潮の干満の双方が,磯辺の生き物であっただろう私たちの祖先の体に刻み込まれ,上陸以後太陽の光の明暗によるリズムが潮汐リズムをすっかり覆う形になったとはいえ,からだの深層に深く刻まれたそれが条件次第で時折頭をもたげくる。例えばそれは眠りのリズムのずれを生み出し,昼夜逆転の生活に引き込む遠因となっているのではないかという。

 初期の生活条件に影響を受けたほかに,上陸以後の陸上生活における気象条件から受ける影響もあったとされる。
 寒暑乾湿のもたらす「休眠」「冬眠」である。
 このように,「光の明暗」「潮の干満」「四季の交代」にいたる,「いわば宇宙的な要素がなにか深く関わっているのではないか」「それはいいかえれば,月に纏わりつかれて太陽の周りを自転しながら公転するわれらが地球の搏動が,あるいはこの肉体を借りて現れ出たものではないか」というのが,三木氏の主張である。
 これはもちろん,胎児のからだの成長を観察し,そこに魚類から両生・爬虫類を経て哺乳類獅子がしらの相貌にまで劇的な変身を遂げる姿を見,またそれがせきつい動物の1億年に及ぶ上陸のドラマの再現と見る氏の辿り着いた主張なのである。
 氏はもちろん,氏の考えの実証困難なことはよく知っている。
 しかし,これがとんでもなく突飛な考えとも言えないという気がぼくには,する。
 先に呼吸機能の変身に見たように,確かに進化はしているが,我々の肉体はかなりな程度で過去を引きずっていることも事実なのだ。
 今後に解明を待つことが多いとしても,ぼくには氏の説が正しく,また重要な説であると思われてならない。

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